- 生成AIは、事実と違う内容を“もっともらしく”答えてしまうことがあります。これをハルシネーション(もっともらしい作り話)と呼びます。
- 原因はAIの仕組み。AIは「事実」を知っているのではなく、次に来そうな言葉を確率で予測して文章を作っています。だから知らないことも“それらしく”埋めてしまいます。
- 中小企業で危ないのは①数字・出典の捏造 ②契約・法律の“それっぽい”誤り ③社内向け説明の取り違えの3場面。
- IPA(情報処理推進機構)の考え方に沿った3つの守り方=①最終確認は必ず人が ②機密情報は入れない ③出典を自分で確かめる。
- 「間違うから使わない」はもったいない。クセを理解し確認をセットにすれば、下書き・要約・アイデア出しの強力な相棒になります。今日から使えるチェックリスト付き。
その回答、本当に合っていますか?

ChatGPTのような生成AIに質問すると、まるで人が書いたような自然な文章で、すらすらと答えが返ってきます。とても便利です。——でも、ときどき「え、それ本当?」という“堂々とした間違い”が混じっていることに気づいた方も多いのではないでしょうか。
実在しない本や論文を「参考文献」として挙げてきたり、条文番号や統計の数字をもっともらしく“でっちあげる”ことがあります。しかも、その口ぶりはいつもどおり自信たっぷり。これが本記事のテーマ、ハルシネーション(hallucination=幻覚)です。
生成AIはもはや一部の先進企業だけのものではありません。身近な事務作業に使い始める中小企業が増えている今だからこそ、「便利さ」と同じくらい「間違いとの付き合い方」を知っておくことが、会社を守る第一歩になります。
直訳すると「幻覚」。AIが事実ではないことを、事実のように答えてしまう現象を指す言葉です。悪意があるわけでも、故障でもありません。AIという道具の“クセ”だと考えると分かりやすいです。
なぜAIは“もっともらしい嘘”をつくの?

「そんなに賢いのに、どうして平気で間違えるの?」——この疑問を解く鍵は、生成AIの仕組みにあります。
私たちはつい、AIを「なんでも知っている物知り博士」のように感じてしまいます。しかし実際のAIは、膨大な文章を学習して「この言葉のあとには、次にどの言葉が来やすいか」を確率で予測しているのです。東京都の解説でも、AIは「事実」を知っているのではなく、単語の確率分布から予測しているだけ、という理解が大切だと指摘されています。
つまりAIは、「正しい答え」ではなく「もっともらしく続く言葉の並び」を作るのが得意な道具です。だから、知らないことや情報が足りないことも、空欄にせず“それらしい何か”で埋めてしまう。これがハルシネーションの正体です。
とても口が達者で物知りな新人が、「知りません」と言えない性格だと想像してください。9割は的確なのに、たまに知らないことまで自信満々に“それっぽく”答えてしまう。だからこそ、大事な場面では上司(=あなた)の確認が要る——AIとの関係もこれと同じです。
中小企業で“ヒヤリ”とする3つの場面
ハルシネーションは、遊びで使う分には笑い話で済みます。しかし仕事で使うと、思わぬトラブルの火種になります。特に中小企業で起きやすい3つの場面を挙げます。
「市場規模は〇〇円」「調査によると△%」——AIが実在しないデータや出典をそれらしく作ることがあります。資料やSNS投稿にそのまま載せると、会社の信用問題に。
契約書や規約の下書きをAIに頼むと、最新の法改正に未対応だったり、自社に不利な条文が紛れることも。専門知識がないと気づかず通してしまいがちです。
「この機器の設定手順は?」といった質問に、存在しないボタン名や操作を答えることも。現場がそのまま従うと、手戻りやミスにつながります。
ハルシネーションは、正解が一つに決まる情報(数字・日付・条文・製品名・URLなど)で起きると被害が大きくなります。逆に、文章の言い換えや要約のような“正解が幅広い”作業では、間違いが起きても影響は小さめ。どの用途で使うかで、警戒レベルを変えるのがコツです。
IPAが示す向き合い方|“3つの守り方”

では、どう付き合えばいいのか。国の機関であるIPA(情報処理推進機構)は、生成AIを安全に業務で使うための「テキスト生成AIの導入・運用ガイドライン」(2024年7月公表)を出しています。その考え方を、中小企業がすぐ実践できる3つの守り方に整理しました。
- 守り1:出力は必ず「人」が最終確認する(ファクトチェック)AIの答えをそのまま使わないのが大原則。特に外に出す資料・数字・固有名詞は、人の目で裏を取ってから使います。「AIはたたき台、仕上げは人」という役割分担を徹底しましょう。
- 守り2:機密情報・個人情報は「入力しない」顧客名簿・未公開情報・パスワードなどはAIに入力しないのが基本ルール。入力した情報が外部に残るリスクを避けられます。IPAも「情報の取り扱いルールを決めること」を重視しています。
- 守り3:出典・参照元を「自分で」確かめるAIが挙げたURLや書名は、本当に実在するか、内容が主張を裏づけているかを自分で開いて確認します。「AIが言っていたから」は根拠になりません。一次情報(公式サイト・公的資料)に当たるクセをつけましょう。
3つの守り方は、どれも特別な技術は不要です。要はAIを“下書きマシン”として使い、最終判断は必ず人が持つこと。この一線さえ守れば、多くのリスクは未然に防げます。
今日からできる|安全に使うチェックリスト
会議や研修を待つ必要はありません。次の7項目を意識するだけで、ハルシネーションの被害はぐっと減らせます。まずは声かけレベルからで大丈夫です。
- 数字・日付・固有名詞・URLは、公式資料で裏を取ってから使う
- 契約・法律・お金に関わる出力は、専門家(士業など)に確認してから使う
- 顧客情報・個人情報・未公開情報は入力しない(入れてよい情報の線引きを決める)
- AIが挙げた出典・参考リンクは実際に開いて実在と内容を確認する
- 「本当に合ってる?根拠は?」とAIに聞き返し、複数の答えを見比べる
- 社外に出す文章は、必ず人が最終チェックしてから公開・送信する
- 迷ったら“正解が一つに決まる用途”ほど慎重に——警戒レベルを使い分ける
入力ルールの決め方は「中小企業のための生成AI『社内ルール』の作り方」、AIに“ちゃんと伝わる”質問のコツは「ChatGPTに“ちゃんと伝わる”指示の書き方」でくわしく解説しています。
まとめ|「間違うから使わない」は、いちばんもったいない
ハルシネーションは、生成AIという道具の“クセ”です。故障でも欠陥品でもありません。車にブレーキが要るのと同じで、クセを知って“確認”というブレーキをセットにすれば、安心して使いこなせます。
大切なのは、「AIにたたき台を作らせ、人が仕上げて確認する」という役割分担。これだけで、下書き作成・要約・アイデア出しといった日々の仕事が、驚くほど速く、しかも安全になります。間違いを恐れて使わないことこそ、いちばんの機会損失かもしれません。
「うちの業務なら、どこまでAIに任せて、どこを人が確認すればいい?」——その線引きを一緒に描くのが、Office Nの役割です。中小企業・個人事業のリアルに寄りそって、安全で無理のないAI活用をご提案します。まずはお気軽にご相談ください。
- IPA(情報処理推進機構)「テキスト生成AIの導入・運用ガイドライン」(2024年7月・産業サイバーセキュリティセンター) https://www.ipa.go.jp/jinzai/ics/core_human_resource/final_project/2024/generative-ai-guideline.html
- IPA「AI利用者のためのセキュリティ豆知識」 https://www.ipa.go.jp/digital/ai/security/ai_security_tips.html
- IPA「AIの利活用、AIによるDXの推進」 https://www.ipa.go.jp/digital/ai/transformation.html
- 東京都サイバーセキュリティポータル「生成AIのハルシネーション対策と求められる人的素養」 https://www.cybersecurity.metro.tokyo.lg.jp/links/727/index.html
※本記事は、上記の公的機関が公表する資料・解説に基づく一般的な解説です。ハルシネーションの発生有無・程度は、利用するAIサービスや質問内容によって変わります。制度・ガイドラインの内容は改定されることがあるため、最新・正確な情報は各公式サイトでご確認ください。本記事は法律・契約に関する個別の助言を行うものではありません。契約・法務・税務など専門的な判断は、必ず専門家にご相談ください。
